ふるさと納税での競争力強化。市民や事業者を巻き込む新たな自治体広報のかたち
岐阜県関市
関市役所 企画広報課 課長補佐 金子創様
関市役所 企画広報課 主事 山田京平様
事業内容
岐阜県関市は、岐阜県中部に位置する人口およそ8.5万人の地方自治体。鎌倉時代から刃物の生産が盛んで、世界三大刃物産地の1つに数えられる。 そんな日本一の刃物のまちをPRすべく、ふるさと納税では返礼品として包丁やキッチンツールなど刃物製品を多く提供。 全国26位(令和3年度 / 1788自治体中)の寄附を集めるなど、全国から注目されている。 1ROLLを導入した企画広報課は、広報紙の発行、ホームページ運用、SNS管理など庁内の広報業務を担当するほか、動画を活用した庁内業務の効率化を目指す取り組みの検討や、ふるさと納税の運用を行う。
ミッション
・庁内の様々な手続き、制度説明などを動画で伝えることで、事務効率化を図る ・「日本一の刃物のまち」をPRし、コロナ禍で出荷の減る地元の産業や事業者を支える ・地場産業のPR及びふるさと納税の寄附拡大のために返礼品の魅力を発信する
導入前の課題
- ふるさと納税において返礼品の使用感を伝えるわかりやすい手段がなかった
- 庁内業務において、職員が短期間で異動するためノウハウが蓄積できず業務効率化が難しい
- 庁内で広報業務を職員に奨励しているものの、ツールの活用へのハードルが高く、十分な発信ができていない
導入効果
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動画導入で寄附件数、寄附金額
ともに平均1.3倍増加
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最大で寄附件数
3.3倍に伸長
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ふるさと納税の寄附金額全体
昨年比1.2倍増を達成
コロナ禍のピンチをチャンスに活かすふるさと納税の活用
岐阜県関市は、岐阜県中部の中濃地方に位置する人口およそ8万人の自治体で、岐阜市に隣接しており、名古屋からはおよそ40kmの距離にある。
古くから刃物の生産が盛んで、その起源は鎌倉時代の日本刀の製造に遡ると言われている。関市での刃物生産は世界的にも知られており、世界三大刃物産地の1つに数えられる。
そんな関市では、特産品である刃物を活かした地域活性の取り組みが話題を呼んでいる。
ふるさと納税では、包丁をはじめとしたキッチンツールや刃物を返礼品として提供。令和3年度には20万件以上の寄附が集まり、全国26位の実績を誇るなど、注目を集めている。
しかしながら関市でも、パンデミックの影響は地域経済に大きな打撃を与えた。刃物をはじめとする製造業では、材料の調達から製造に至るまで、長い時間を要する。
そのため、パンデミック以前に立てられた百貨店や土産物店への出荷計画をもとに製造した大量の商品が店舗へ卸せず、行き場を失うという事態が発生したのだ。
売上につながらない在庫を抱える事業者が後を絶たない事態に、自治体としても救済策に取り組む必要があった。
こうした事態に対して関市は、ふるさと納税に白羽の矢を立てた。
2008年に始まったふるさと納税は、応援したい自治体に寄附をすると、その返礼品として地元の名産品などを寄附者が受け取ることができる。
主要な申込手段がインターネットなため、地方にいながら首都圏をはじめ全国に向けたアピールが可能だ。
「ふるさと納税を、救済策の1つの柱として、より力を入れていく方針になりました。ふるさと納税は、官民が連携して行える「産業振興」の重要な施策の1つであり、ふるさと納税を通して「関市の刃物・ものづくり」のファンを増やしていくことが我々の大きな使命のひとつと感じています。」(金子氏)
お客様から求められている動画をいかに活用するか
救済策としての方針が決まったものの、ふるさと納税での課題があった。
出品しているラインナップは、関市だけでも2,000品目を超えており、そのうち刃物が1,300品、包丁だけでも650品ある。
多彩なラインナップから、とっておきの一品を選び出すのは至難の業だ。また従来のサイトでは返礼品の情報を伝える手段が画像と文章のみ。
返礼品のサイズ感や質感、キッチンで使うときの使用感などを伝えるには不十分だった。
そこで関市が目をつけたのが、動画による発信だ。ところが、返礼品の提供元である事業者に動画制作を呼びかけたところ、思ったように数が集まらなかった。
「事業者のみなさんに話を聞くと、必要性は理解しておりやりたいと思う一方制作や編集が難しそう、あるいは機材が高そう、といった声が多く寄せられたのです。」
そんななか数少ない動画をサイトに展開したところ、累計再生数が25万回を超えていることがわかった。
「再生数の多さに驚きました。同時にやはり動画は寄附者から求められていると、はっきりわかりました。
事業者側からも作りたいという声があり、動画の可能性を強く確信しました。そこで誰もが簡単に動画制作ができるツールを探すことにしたのです。」(金子氏)
外部評価を追い風に前代未聞のデジタルツール導入
関市が動画制作ツールの検証にあたって、とくに重視したのは「誰でも簡単に使える」ということ。
本当に簡単に動画撮影できるアプリであれば、少しでも制作へのハードルを下げ、発信してくれる確率が高まることを期待したのだ。
そうしたなか、1ROLLの存在を知った。試しにトライアルで利用してみると、40代の職員が説明書を読み込まなくても、動画を撮影できたという。
「ものの5分程度で制作できました。動画といえば莫大な制作費を掛けて、質の高いものを作るというのが定石と思っていましたから、こんなに簡単に作れることに驚きました。という声をもらったこともあり、1ROLLの導入に至りました。」(金子氏)
しかし、こうしたデジタルツールの導入の前例がなかった関市。庁内では利用にあたっての障壁もあったという。そこで事業者向けの説明会を開催したところ、約30社が参加。
年末の繁忙期に差し掛かったものの、およそ20本の動画が制作され、2ヶ月あまりで約2,500回の再生数を獲得した。
「事業者の方からは「動画だから内容がギュッと詰まっている」とか「十分見栄えもいい動画に仕上がっている」というポジティブな評価をもらえたことで、
最高のツールを活用することで結果につながるのではと自信を持って庁内に説明できました。とくにふるさと納税は歳入の見込める事業であるため、庁内への説得もしやすかったと思います。」(金子氏)
関市役所で実施された1ROLL説明会の様子
事業者の1ROLL活用の様子
1ROLLを事業者に開放し自ら動画制作できる環境を整備
1ROLL導入後の関市での運用も斬新だ。誰でも動画制作ができるなら、返礼品のことを一番良く知っている事業者のみなさんに動画を作ってもらおうと呼びかけたのだ。
関市でアカウントを管理し、利用希望のあった事業者にアカウントを貸し出す形式で運用することにした。
「1ROLLは操作が非常に簡単なので、誰でも撮りたいときに撮りたいものを制作できます。
それならばその返礼品のことに一番精通している事業者のみなさんに作ってもらうことで、一番伝わりやすい動画を作ることにつながると考えました。」(金子氏)
ふるさと納税の返礼品を動画で紹介する取り組みは行政初の試みだったこともあり、地元メディアで報道された。
制作した動画はふるさと納税サイトで活用することを必須条件とし、その他は事業者が自社SNSや店頭VTRなどへの展開で自由に活用できる。
「1ROLLでは、短時間で複数の動画を簡単に制作できるため、複数の動画を上げて再生数を比べることでお客様がどんな動画を求めているのか把握できます。
それを参考に新たな動画を制作するなど、試行錯誤しながら取り組めると思います。」(金子氏)
1ROLLの動画を掲載したことでの寄附件数、寄附金額がともに平均1.3倍増加し、最大で寄附件数が3.3倍に伸長した。
該当の返礼品は、静止画だと使い方が伝わりづらく、動画との相性が良かった。関市へのふるさと納税の申込み全体は、昨年比1.2倍増の48億円に達した。
(↑) 動画をアップし寄附件数が3.3倍になった返礼品:段ボールのこ ダンちゃん
掲載サイト:https://item.rakuten.co.jp/f212059-seki/10002041/
(↑) 関市が誇る刃物返礼品も動画で紹介:プレミオ オールステンレス包丁
掲載サイト:https://item.rakuten.co.jp/f212059-seki/10001003/
「自治体がふるさと納税のPRに取り組む際、広告を出稿する方法が一般的です。そんななか、関市ではサイトに訪れたお客様に素晴らしい地場産品があることを知ってもらえる環境づくりに重点を置きました。とくに今回の動画は、再生するためにわざわざクリックする必要があるので、再生回数が多くなっていることが、お客様からのニーズを証明していると思います。」
庁内での動画活用や市民を巻き込んだ新たな魅力発信へ
今後の動画活用について、金子氏は庁内の業務での活用に取り組みたいという。自治体では、3年程度で職員の異動がある。
また日直や選挙、調査、災害対策など、頻度は低いが重要な不定期業務も多い。こうした業務では、技術やノウハウの継承が難しい。
そこで業務マニュアルを動画で制作することで、業務効率化や理解の深化が実現できるのではないかと期待している。
すでに関市は、庁内向けのPRにも取り組んでいる。動画を作る可能性がある部署に周知し、使い方の説明会を実施。複数の部署から活用したいという声があがった。
実際にがん検診や禁煙の啓発のほか、マイナポイント手続き業務での職員への説明など、庁内業務での動画活用も進んでいる。
「1ROLLでは誰でも簡単に動画制作ができるので、担当者がマニュアル動画を制作し、いつでも誰でも見ることのできるオープンな状態にすることで、利便性が向上すると思います。 長年市役所職員として働いてきましたが、より効率化できる作業や技術の継承ができていない業務が数多くあります。 こうした課題を解消する手段として、動画制作は大きな可能性を秘めていると感じています。」
金子氏は動画活用をきっかけに、市民を巻き込む新たな広報活動に取り組みたい、と意気込みを語ってくれた。
「関市の職員は700人ほどですが、市民はおよそ8.5万人、刃物関連の事業所だけでも約300あります。
関市では「職員全員が広報」というスローガンを掲げ、広報活動に取り組んできました。
今後は関市に関わるみなさんとワンチームで関市の魅力発信に取り組むことで、持続可能で効果の大きい巻き込み型の広報活動に取り組んでいきたいです。」(金子氏)
コロナ禍は地場産業へも深刻な影響をもたらした。そうしたピンチをきっかけに、関市ではふるさと納税の強化や動画活用など、新たな施策に取り組んできた。
地域の魅力をどう発信するか。市民や事業者を巻き込む新たな広報施策はまだはじまったばかり。動画活用を起点とした、関市の庁内外に拡がる新たな取り組みに今後も注目したい。
- 社名
- 岐阜県関市
- 事業内容
- 地方自治体
- 設立
- 従業員数
- 715
- URL
- https://www.city.seki.lg.jp/ tabs (関市役所公式ホームページ)